あの鐘が鳴ったなら、睡蓮が教えたことはほんとうでしょう。湖の底の御殿もあるのでしょう。女王様のお言葉もほんとうでしょう。お兄さまもほんとうにあそこで待っていらっしゃるでしょう。……あの鐘を撞いてみましょう……」
ミミが撞いた鐘の音(ね)は、大空高く高くお月様まで……野原を遠く遠く世界の涯まで……そうして、湖の底深く深く女王様の耳まで届くくらい澄み渡って響きました。
お寺の坊さんも、村の人々も、子供までも、みな眼をさましたほど、美しい、清らかな音(ね)が響き渡りました。
ミミは夢中になって喜びながら、お寺の鐘撞き堂を駈け降りました。
「ああ……夢ではなかった。夢ではなかった。お兄様はほんとうに湖の底に待っていらっしゃる。
妾(わたし)が来るのを待っていらっしゃる。
ああ、嬉しい。ああ、嬉しい。妾はもうほんとうにお兄様に会えます。そうして、もう二度と再び離れるようなことはないのです。ああ、うれしい……」
こう云ううちに、ミミは最前の花の鎖のところまで駈けもどって来ました。その花の鎖の端を両手でしっかりと握って、静かに湖の底へ沈んでゆきました。――空のまん中にかかったお月様をあおぎながら……。
村中の人々は鐘の音に驚いて、老人(としより)や子供までみんなお寺に集まって来ました。お寺の坊さんと一所になって、どうしたのだろうどうしたのだろうと話し合いましたが、誰が鐘を打ったのか、どうして鐘が鳴ったか、知っているものは一人もありませんでした。
そのうちに鐘撞き堂の石段に、ミミの露に濡れた小さな足あとが、月の光りに照されているのが見つかりました。その足あとは草原(くさはら)のふちまで来ますと、草を踏みわけたあとにかわって、ずっと湖のふちまで続いております。
村の人々はやがて、湖のふちに残っている花の鎖の端を見つけました。その一方の端はずっと湖の底深く沈んでいるようです。
「あら、これはあたしたちがミミちゃんに摘んであげた花よ。ミミちゃんが花の鎖につかまってお兄さんに会いにゆくって云ったから、あたしたちは大勢で加勢して上げたのよ」
と二三人の女の子が云いました。
村の人々は皆な泣きました。泣きながら花の鎖を引きはじめました。
お月様がだんだん西に傾いてゆきました。それと一所に湖の水がすこしずつ澄んで来るように見えました。けれども、花の鎖は引いても引いても尽きないほど長(なご)う御座いました。
ようようにお月様が沈んで、まぶしいお太陽様(てんとさま)が東の方からキラキラとお上りになりました。その時にはもう湖の水はもとの通り水晶のように澄み切っておりました。そうしてやがて……。
シッカリと抱き合ったまま眠っているルルとミミの姿が、その奇麗な水の底から浮き上って来ました。
――可哀そうなルルとミミ……。